「ソー活」は本当に効果があるのか-採用担当者の視点

職に就く、そのための方法が多様化し始めている

 就活といえば、就職活動の略。つまり「職に就くための活動」なのですが、多くの場合は、学生が卒業後の進路を決めるための動きを指す言葉になってしまっています。しかし本来は転職したい人でも、休職していて再び働きだしたい人でも、職に就くための行動をしている人は、すべて就活しているといってもいいはずです。その「就活スタイル」に変化が起きていることをご存じでしょうか。

 かつて、就活の方法としては「公募」と「斡旋」が一般的でした。公募とは文字通り、求人を募集するためにその情報を広く公開し、応募者を集めるという仕組みです。新聞や折り込み広告、求人サイトなどがこれに当たると考えてください。斡旋とは、求職者が人材紹介会社に登録をして、求人をしている企業に紹介してもらう仕組み。自分で仕事を探すか、プロに依頼して仕事を探してもらうか、どちらかのスタイルを選択するのが、いわゆる就職活動だったのです。しかし、いま「第三極」が生まれつつあります。

 その大きな流れを作っているのが「ソーシャル」とか「ソー活」などと呼ばれるスタイルです。方法はさまざまですが、その多くは人と人とのつながりを利用して、仕事を探している人と働いてくれる人を求めている企業を結びつけるという構造になっています。FacebookやTwitterといったソーシャルネットワークサービス(以下、SNS)が発達して、人のつながりが可視化される時代だからこそ、できるようになった仕組みだといえるかもしれません。友人を紹介したら多額の礼金がもらえる、といううたい文句で勢いを感じさせるサービスになっています。

 これらのサービスを利用すると、仕事に就きたいと考えている個人と、働いてくれる人を探している企業の双方に、大きなメリットがあります。まず個人側のメリットとしては、就職活動が楽にできるということ。これはとても大きなポイントです。例えばSNS上で「転職したい」と書いておくことで、それを見た友人が「彼は仕事を変わりたいと考えているのか」と認識してくれたとします。そんな時に、親切な友人なら、SNS上で求人している企業を偶然見つけて「こんな会社が募集しているよ」と紹介してくれることもあるでしょう。あるいは「知人の会社で働いてくれる人を探しているようなんだけど、どう?」なんていう話を持ってきてくれるかもしれません。自分だけで就職活動をしていても、その企業の募集とは出会わなかったかもしれませんが、友人に知らせることで「視野が広がる」可能性があるのです。

 

ソーシャルグラフに注目して、その人の能力を測りたい企業

 一方、SNSを使った求人は、企業側にも大きなメリットがあります。求人する場合、今どき「誰でもいいので働いてくれ」と募集をかけることはありません。ある程度のスキルを求めているものばかりです。しかし今までのような公募スタイルだと、そのスキルを持ち合わせている人たちに出会うことはなかなか難しい。斡旋だとスキルを持ち合わせている人と確実に出会えますが、人材紹介会社に支払うフィーは安くありません。企業によってはそれだけのお金を払うことが難しいところも少なくないのです。

 SNSを使った求人は、そのソーシャルグラフ(Web上での人間関係やつながり)などを利用することで、求めているスキルを持ち合わせている人たちに求人情報を提供することができます。そしてそのメディアの特性上、ターゲットになりそうな人たちの間で情報をシェアしてもらうことも容易です。なおかつ、紹介者に謝礼が支払われるとなれば、伝播する効率はさらにアップします。謝礼額を人材紹介会社に支払うフィーよりも安くできれば、コスト効率はいっそう良くなります。

 ……と、ここまで読んで「そんなステキなサービスがあるなら、他のサービスは駆逐されるよね!」と感じた人も少なくないと思います。確かに仕組みとしては素晴らしく、成功事例も出始めているのですが、現状の日本では爆発的な広がりは見せていないのが正直なところです。理由はいくつか考えられます。

 まずは「転職したい」という意向を、他人に漏らす人は少ないということ。SNSで会社の同僚や上司とつながっている人は少なくありません。特にFacebookで、仕事上の付き合いがある人とまったくつながっていない、という人はむしろ少数派でしょう。そこで「会社辞めたい」などと書ける勇気のある人は、それほど多くない。また、そういうサービスに登録したくても、登録した瞬間に「この人はこのサービスに登録しました」とシェアされてしまう。それを見られることで「あれ、こいつ辞める気?」と、周囲が勘ぐっても不思議ではありません。以前と比べて、転職することにかなり抵抗がなくなってきたといっても、まだまだカジュアルな感じでもないのです。

 もうひとつは「抵抗感」です。友人を紹介することで謝礼がもらえるという仕組みは、一見みんながハッピーになれそうな印象を受けますが、金銭という生々しいものを友人関係の中に持ち込むことになってしまいます。転職や就職がうまくいけば良いのですが、働き始めてつらい状態になったとき、友人関係が悪くなってしまうことは目に見えています。こういう事情があると、大切な友人であればあるほど、気安く紹介できなくなってしまいます。エンジニア領域での採用では、一時期「従業員が友人を連れてくる」という仕組みを取り入れていた企業がたくさんありましたが、やはり似たような事情で下火になりつつあるようです。

 ただし、企業がSNSに注目しているのも事実。その理由は人とのつながりによる情報伝播力でも、ネットワークを利用した採用でもありません。そこに書かれている「個人情報」や「ソーシャルグラフ」に目をつけているのです。

 

「素行を見るためにSNSチェックする採用担当者」の嘘

 こういう話をすると「素行を見るためにSNSをチェックする採用担当者がいるという話のことだろう」と考える人もいるでしょう。確かに、最近まことしやかにそういう話が流布し始めています。飲み会の写真や普段の言動をチェックして「応募者の素顔」を確認しているので、書き込みには要注意だとか。もちろん違法行為を誇示する人は論外ですが、飲み会で「ハジけている」写真を掲載しているからといって、それで即バツを付けるほど企業の採用担当者はバカではありません。彼らはもっと別の視点で、個人情報やソーシャルグラフを見ています。それは「可視化しにくいスキル」なのです。

 例えば、職務経歴書などで求職者の能力はある程度把握できます。が、そこに書かれていないけれども、有している能力や経験は見えてきません。また、今どんなことに関心を持っているのか、そして、どのような視野を持っているのかは、短い面接などでは分かりません。SNSに書き込まれている日々のことや参加しているイベント、読んでいるコンテンツなどを確認することで、いままでの採用フローでは見えなかった「本当の素顔」が見えるかもしれないと注目しているのです。素行などは、付け足しの要素に過ぎません。

 SNSを使った採用は、人と人とのつながりを利用することで、その人物の「確かさ」も担保しようと考えられています。が、転職や就職という「意外に重たい行動」では、その威力を発揮することは現状では難しい。ですが、そのツールがもたらしたもう一つの側面、つまり「自分自身を可視化する」という部分に光を当てると、今まで以上にその人の能力などをアセスメントできるようになった、ということになります。これは企業にとってのメリットだけではありません。仕事を探している人にしてみれば、SNSによって今まで以上に自分の能力をきちんと見極めてもらえる可能性が出てきた、ということなのです。

 能力があってもうまく伝えられなくて埋もれてしまっている人も、日々の気づきや勉強したこと、関心などをソーシャルメディアで書き留めておくことで、それをみて「本人も上手く説明できない魅力」に気づいてもらえるかもしれない、という時代が幕明けしそうな予感がします。

Business Media 誠


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