なぜ若手社員は失敗を恐れるのか
「イマドキの若手社員は失敗を恐れる、挑戦心がない」と嘆く、経営者やマネジャーの声を最近よく耳にします。確かに最近の調査データなどでも、若手社員の挑戦心の欠如を示す結果が出ていますが、一方の若手社員たちは企業サイドが挑戦心を期待すること自体に疑問を感じているようです。彼らは、失敗を恐れるなと言われても、どうしようもなく失敗したくないのです。
では、そんな気質のある彼らに対してどう指導すれば、会社の求める挑戦心ある人材に変えることができるのでしょうか。今回は、保守化する若手社員の実態とその解決法を考えてみたいと思います。
企業が若者に求める姿勢 第1位は「挑戦」
ある先輩経営者と「20代の若者へのメッセージ」をテーマに対談をしたときのことです。
「最後に一言。自分がもっとやっておけばよかったと思うことを教えてください。それをイマドキの若者に向けてのメッセージにしたいと思います」
インタビュアーがこう質問をぶつけてきました。するとその方からは、こんなメッセージが返ってきました。
「若いうちにもっと失敗しておけばよかった。失敗から学べることがたくさんあるからです」
多くの先人は失敗に学ぶことが大好きです。だからでしょうか、「失敗学」という学問まであります。失敗学とは、起こってしまった失敗に対し、責任追及のみに終始せず原因を究明する学問のこと。失敗を通じて得られた知識を社会に広め、ほかでも似たような失敗を起こさないように考える以下の3点が失敗学の核だそうです。
・原因究明
・失敗防止
・知識配布
どうやら最近では、「失敗学会」という組織まであるようです。
先人たちがこうした考えを持っているからでしょうか。多くの企業も失敗を恐れない社員の挑戦を称賛します。産経新聞社と駿台教育研究所が企業と大学を対象に行った「時代が求める人材像」調査によると、若者に期待する姿勢のトップが「挑戦」だったことからも、それは明らかです。。
厳しい就職戦線を抜けてきたゆとり世代の真面目な新入社員たち
ところがイマドキの若手社員は、それとは正反対の志向にあるようです。ジェック社が新入社員を対象に行った「企業人としての意識」調査から「最近の新入社員の特徴」を紹介しますと、最近の新入社員は、
「仕事は自分のためにやるのではない」
「仕事を通じて社会に貢献したい」
「働き甲斐を求める」
という傾向が強くなっているそうです。また、学習能力が高く、親和欲求が強く、言われたことに素直に真面目に取り組む傾向があり、これは新入社員の普遍的な傾向の1つであるものの、ますます強くなっています。
さらに、この素直さと真面目さにより、頭で理解してから行動ができるようになるまでの時間と練習量が少なくても、マナーや挨拶用語などがある程度できるようになるとのこと。そして、「やればできる人」「頑張っている」と認められたいとモラル・礼儀作法を重視する傾向が見られるようです。簡単に言ってしまえば、ひたすら「真面目」なのです。
ただ、それゆえ、真面目に努力をするものの、自分で物事を考えることをせず依存傾向が強くなっていると懸念される現象も目立つようになりました。これらの行動の背景には、他の人と異なると目立ってしまう、「失敗したくない」という意識が働いているのでしょう。良くも悪くも、目立ちたくないという意識から、自ら積極性を発揮することにブレーキをかけてしまっているのかもしれません。
さて、このように企業の期待する人物像と実際の若手社員の間には悩ましい乖離が生まれはじめています。
若手社員=目立ちたくない、挑戦して失敗したくない
企業サイド=目立ってほしい、挑戦を恐れないでほしい
こうした状況は、ここ5年で顕著になってきたと言われていますが、その背景にあるのが、
・新入社員の多くがゆとり教育世代になってきた
・就職環境が厳しく、保守的にならざる得ない
という点です。
では、実際の職場ではどのようなギャップが生まれているのでしょうか?
クレームを受ける仕事はイヤ!「ベテラン社員がやるべき」と語る若手
ある機械メーカーで若手営業にインタビューをしたときの話です。最近の職場環境について悩みを聞くと、彼は意外な話をしてくれました。それは「自社商品の故障」への対応についての不満でした。会社が新商品をリリースするにあたって、上司はテストセールスを若手社員に頼んでくるのですが、それに対してこんな不満を抱いているというのです。
「新しい商品なので、納品後に故障が出る可能性があります。当然ながら僕がクレームの矢面に立たされます。でも、そんな役割はしたくありません」
つまり、クレームを受けたくない、ゆえにテストセールスはやりたくないと主張してきたのです。ある意味、間違った主張でもない気がしたのですが、ここで1つの疑問が湧いてきました。
「でも、誰かが矢面に立つ覚悟で新商品を売らないと、どうなると思う?これまでリリースした商品でテストセールスは誰かがやってきたのではないかな?」
思い切ってこんな質問をぶつけてみました。ちなみにこの会社では、これまでも若手社員が元気にテストセールスを行い、もし故障などトラブルが起きれば先輩社員が同行してお詫びする…と言った形をとってきたようです。
確かに考えてみれば、若手社員が人身御供となっていた点は否めないかもしれません。ただ、誰かがやらないといけない仕事なのは明らかです。そこで、
「では、若手社員だけでなく、全員が同じようにテストセールスするのであれば問題はないのかな?」
と質問したところ、驚くような返事が返ってきました。
「こうした故障でクレームの起こる可能性がある仕事は、経験のあるベテラン営業がやるべきだと思います」
むしろ若手社員がやるべきではないという合理的な意見を言ってきたのです。私も返す言葉に苦慮してしまうくらいです。このような発想で考えれば、若手社員は経験がないので故障の少ない、リリースして長い期間が経っている手堅い商品だけ扱えばいいということになります。
ここまで話をしながら、この若手社員の言うことは論理的に間違っていないことを理解しながらも、一方で企業サイドに培われていた若手育成の考え方と大きな隔たりを感じてしまいました。
企業の本音「面倒な仕事は若手へ」を理解している若手社員の正当な言い分
こうした言動から、若手社員の失敗をトコトンしたくないという気持ちがよく分かります。このケースであれば故障した商品を販売してしまいクレームを受けるトラブルに巻き込まれることが「失敗」だと思い込んでいます。
一方で、これまでであれば、
「テストセールスは若い社員の仕事であり、勉強の機会である。完成していない商品を売るためのセールストークも自分で考えてくれ。当然ながら故障が出れば、対応もしてもらう。もちろん、大きなクレームになれば先輩がサポートするから心配するな」
という会社サイドの勝手な論法によって、若手社員は面倒な仕事を押し付けられてきました。しかし、これはその論法に対する正当な疑問をぶつけられるとあっさり破綻するような程度のロジックしかありません。つまり、あくまでも企業側の本音は、「ベテラン社員には面倒な仕事を任せられないから若手社員に」というものなのです。
ところが若手社員は、会社側の「若手にはいい勉強の機会、こうした仕事に挑戦することで多くのことを学んでほしい…」と言った言葉は、あくまでもこじつけであることを見透かしてしまっています。しかも、高い確率で失敗に遭遇する機会が待っていることも理解しています。
おそらく、こうした事実を理解している若手社員は、上司や先輩にテストセールスの担当をしたくないと直接主張することになるでしょう。それなりに理詰めで理由を述べて、説得を試みるに違いありません。
だだ、その結果は若手社員にとって悲観的なものになるに違いありません。この会社は比較的体育会系のノリがあるので、
「経験の浅い営業が会社の決めたことに文句をつけるな」
と一喝されるはず。失敗を恐れて楽な仕事だけしたいなんて甘すぎるとお説教をされる羽目になるかもしれません。
「俺の若いときにはクレームで1日お客様のオフィスに監禁されたことがある。でも、そうした苦労からたくさんのことを学んだんだ」
こんなことを言われ、テスト営業から逃れられないことに加えて、その役割が押し付けられている理由に納得できないことでしょう。ただ、そうなると合理性のない答えしかできないで若手に面倒な仕事を押し付ける会社を辞める覚悟をもつ人が出てくる気がしてなりません。では、これから会社はどう対応すればよいのでしょうか?
なぜ失敗が必要なのか 一歩踏み込んだ論理的な説明が必要
失敗から学べることはたくさんあります。ゆえに若いうちに数多く経験した方がいいのは間違いありません。ただ、その失敗を若手に経験させる機会の提供には、以前よりも上司や先輩社員による巧みな説明や工夫が必要になってきたのです。
「テストセールスはお客様に信頼されるために何をすべきか学ぶ機会となる。まさに営業の原点を体感する機会として、若手営業の君たちに頑張ってほしい」
例えば、このような動機形成が必要です。多少は無理があるかもしれませんが、「だから、君たちがやるべき仕事である」と説明して納得できれば、失敗も恐れないはず。要は失敗して何が学べるのかを具体的に語れればいいのです。
これまでは、あいまいに「勉強になるから失敗を恐れず挑戦してほしい」と言ってしまいがちでしたが、もう1歩踏み込んだ説明を加えることで、若手社員たちも失敗を恐れない挑戦に十分、意欲的に取り組んでくれることでしょう。