転勤で辞めさせない新たな選択肢、模索する企業

仕事と家庭生活の両立に立ちはだかる、転勤の壁。転勤前提の女性総合職にとっては、自身や配偶者が異動するのを機に、別居か、退職かの選択を迫られることもある。有能な人材を辞めさせない――。企業の模索がはじまった。

 

■配偶者の転勤地へ異動

バイエル薬品(大阪市)でMR(医薬情報担当者)として働く西山こずえさん(30)は2012年1月、徳島市から神奈川県藤沢市の営業拠点へと異動した。10年に結婚した夫が翌年、徳島から東京都内に転勤。その数カ月後、追いかけるように自分も動いた。「別居という選択肢はなかった。会社と所属長の配慮に感謝しています」

 

西山さんは、同社が09年に導入した「ペア・トランスファー制度」を活用。配偶者が転勤したら、別居せずに通える拠点への異動希望を申請できる。対象は全国に営業拠点網があるMRで、人員配置の都合によっては100%保障されるわけではないが、これまで5人の女性全員が希望をかなえた。

 

勤務地を選べない総合職の場合、自身あるいは配偶者の転勤で、仕事を辞める人は少なくない。現場に欠かせない人材であれば、企業の痛手は大きい。

 

「入社4~6年目の女性の離職率上昇を抑えることが課題だった」とバイエルの福島敬司人事担当部長は制度導入の背景を語る。聞き取り調査で結婚や出産、転勤など働き続けるうえでの「壁」を把握。結婚を決めた相手が他の地域に住んでいる場合にも転勤を配慮する。今春入社のMRの6割が女性で、関心は高い。

 

■遠距離恋愛を解消

「同居できないなら、結婚せずに気楽につきあっていけばいいか」。日本政策金融公庫(日本公庫)で総合職として働く天水祐佳さん(34)は、そう考えていた。社内の交際相手とは8年のうち、双方の転勤で5年間遠距離恋愛。だが昨年3月、ようやく結婚に踏み切った。

 

すでに同社には総合職向けに、配偶者の転勤地近くに異動できる配偶者転勤同行制度がある。今年度から「結婚特例」が加わった。新婚あるいは結婚予定がある場合は2年間、配偶者と同居する住まいから1時間半圏内の通勤可能な店舗に転勤を限定するもの。相手が社外でも利用できる。

 

上席課長代理の祐佳さんは制度を利用するかどうか悩んだ。「男性と同様、店舗を問わず転勤し、経験を積む方がいいのではないか」。夫の正幸さんも祐佳さんの将来を考えると迷いがあったが、ともに一緒に住みたいという気持ちが勝った。

 

ここ5年、総合職採用数の3割を女性とする同社だが、10年勤め続けられる人はまだ半数に届かない。「転勤は相当なネックでした」(女性活躍・職場環境向上推進室の芝田彩子室長)

 

女性総合職の転勤に特例を設ける企業が増えている。朝日生命保険では、子どもが3歳になるまでは転居を伴わない異動にとどめている。三菱化学は、子ども1人につき3年間は男女を問わず転勤見合わせの申請ができる制度を取り入れた。

 

総合職でも、転勤のない地域限定のエリア総合職がある。そこにも目を広げれば、配偶者転勤同行制度を敷く大手企業はかなり増えた。損害保険ジャパンでは昨年度93人、住友生命保険でも制度開始以来5年で103人の利用があった。

 

■「転勤ない働き方」に移行

総合職ならば、転勤を受け入れるべきだ――。そんな常識を疑い、働き方を考える企業もある。衣料品店「アースミュージック&エコロジー」を展開するクロスカンパニー(岡山市)だ。

 

横山裕子さん(24)は11年5月、転勤を伴う「キャリア職」から転勤のない「エリア職」へ移行して、熊本県内の店で働き始めた。東京勤務時に結婚、出産。1年の育児休暇中に、夫がサッカーのコーチの仕事を熊本で得た。「夫の夢を応援したい。でも私が転勤がある働き方では、いつまで一緒に暮らせるかわからない」。上司に相談し、働き方自体を見直すことにした。

 

同社の社員数は2620人(4月末時点)で女性は94%。「結婚や配偶者の転勤に伴う異動相談は年10件ほど。当社の場合、全国に約550の店があるので、工夫すれば希望はかなえられる」と、張替勉取締役は話す。エリア職からキャリア職への登用も定期的に実施し、両職種を行き来することも可能だ。

 

ただ、大企業の人事担当者の間では「優秀な人材に辞められるのは損失だが、すべての社員が個人の事情で転勤相談してきたら、組織が持たない」(食品メーカー)といった声は根強い。

 

職種と地域を限定した正社員制度の導入論議が高まっている。だが、働く側は必要とされる人材になれるか。企業は中長期的な人材確保をにらみ、柔軟な制度を整えられるか。双方の本気度が問われている。

 

■企業の63%「配慮しない」 休職制度はわずか

配偶者の転居を伴う国内転勤で、仕事を続けることが難しくなった社員に、企業はどう対応しているか。労務行政研究所の12年調査では、全産業で「特に配慮しない」が63%(有効回答234社)。1000人以上の企業では56%、300人未満では72%と、規模が小さくになるにつれ割合は高まる。

 

製造業と非製造業で比べると製造業の方が25ポイントも多い。女性社員の多い非製造業の方が、配慮する企業が多いようだ。配慮の内訳では、転居先の勤務地への転勤を配慮するというのが最も多い。非製造業では38%。休職制度は極めて少なかった。

日本経済新聞


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